FC2ブログ
失敗に学ぶ文化への転換が持続可能な教育につながる
2010/01/04(Mon)
「ゆとり世代」の若者は、小学校からゆとり教育を受けてインターネットや携帯電話など新しい情報インフラの環境下で育ってきたことから、価値観や行動がそれ以前の世代とは大きく異なっている。「ゆとり世代」の特徴は、「まじめだが失敗を極端に恐れ、間違いのない答えを求める」ところに見られる。

またバブル崩壊後の現代の若者は、世の中がだんだん悪くなることをふつうと思っているため、偶然に任せるのは危ないと感じている。そのため、偶然ベタでリスクを避けようとし、自分で決め込んだ道筋と少しでも違うことには手を出さない。リスクテイクを取らず、融通の利かないのは、曖昧さは許されないデジタル化技術の影響があると言われている。

こうした「ゆとり世代」が新人社員として続々と社会に出てくる。批判されることが多いゆとり教育はこれまで、もっぱら「教育問題」として論じられたが、これからは「社会問題」となる。

ビジネスの場で重要視されるのは、創造性や問題解決能力である。マニュアル通りに決められたことをやるだけでは、失敗をほとんど経験しないため、決まり切ったことから少し外れただけで、対応ができなくなる。

今や国民的ブランドとなったユニクロも失敗の連続だった。同社は過去にロンドンに進出して失敗、野菜事業に進出して失敗、バーニーズニューヨークの買収に失敗して華々しい失敗を重ねている。ユニクロを運営するファースト・リテイリング社の柳井社長は、「新しいこと始めたら、失敗するのが当たり前。失敗を恐れて守りの経営に入ったら成長はない。物事に失敗はつきものだということを理解し、その上で行動すべき」と語っている。要は、考えすぎずに早くやって早く失敗することである。失敗を財産として次に生かすことである。

経済評論家の勝間和代さんも、成功するためには失敗から学ぶ必要があり、挑戦して失敗力をつける大切さを説いている。失敗しているからこそ、成功への道がわかりやすく見えてくる。どんな人でも失敗しないと成長できない。成功者は、その分人よりも多く失敗して努力しているため、リスクを取り慣れているという。リスクに見合ったリターンを取れるかどうかをすぐに判断できるため、どんどん成功することができる。リスクを取り慣れることが大切で、取っていくうちに感覚的に分かってくるそうだ。

明確な成功モデルがない中で、スピードが求められる時代には、試行錯誤こそが成功の秘訣とされている。米国のシリコンバレーには、失敗しても敗者復活戦を認める風土がある。ベンチャー起業家にとって大事なのは、失敗を恐れず挑戦し続けることである。失敗したらそこから学び、その情報を共有することが、ベンチャー成功の本質と言われている。

対照的に、失敗を恥として受けとめる日本の文化は、ビジネス上の弱点になっている。失敗の許されないやり方では、考えや行動が保守的になり、創造的なアイデアや技術、新しい製品、サービスが出にくい。リスクテイクを嫌って決断を先送りすると、失敗のコストが高くつく。あつものに懲りてなますを吹くことがないように、失敗しても再挑戦できる仕組みづくりが重要である。何度でも挑戦できるベンチャーの「敗者復活戦方式」の風土が必要である。

日本の学校教育にも問題がある。与えられた問題の答えを最短の道のりで出す訓練が中心となっている。答えが見つからない問題には手が出せない。だから、失敗もしない。「失敗しない」ことを学ぶ方法ばかりで、「失敗は成功のもと」、「失敗は成功の母」という考え方が、ほとんど取り入れていない。起業家たちが失敗から学べるのは、自ら決断・挑戦し、自ら失敗を認め、失敗をやり直すからである。

混迷な時代を生き抜くには、多種多様な失敗を繰り返し失敗に学ぶ必要がある。
失敗から学んだ発明王エジソンは、白熱電球を発明するまで一万回失敗したという。しかし、そのことを失敗とは言わなかった。エジソンは、「一万回失敗を重ねてきたわけではない。一万回も成功に近づいている。一万回も成功するための方法を学んだ」と成功を信じて疑わなかった。

参考になる書籍1冊
偶然ベタの若者たち偶然ベタの若者たち
(2009/12)
関沢 英彦

商品詳細を見る

スポンサーサイト



この記事のURL | 教育 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
生物多様性の保全がビジネスを支える
2010/01/10(Sun)
人間の生活や経済活動は、生物や生態系、遺伝子資源などの「生物多様性」の恩恵によって支えられている。また水や食料、木材、気候の安定など、自然の恩恵となる「生態系サービス」は、人間生活にとって不可欠な社会インフラである。「生態系サービス」が劣化すれば、多くの経済活動に支障が出てくるため、生態系と経済活動には表裏一体の関係がある。

「生態系サービス」の保護は、すべての人と企業の課題になっている。「生態系サービス」の損失はビジネスリスクを招き、「生態系サービス」の保全はビジネスチャンスが生まれる。そのため、「生物多様性」を持続的に保全する仕組みが重要となっている。

「生物多様性」は、多様な遺伝子が存在することで、多様な生物種や生態系が作られている。人間の福祉に役立っている医薬品は、生物と関連性が高く、処方薬の6割ちかくが生物由来である。地球上の生物の半数以上が生息する熱帯雨林地域は、医薬品の原料となる植物や微生物の宝庫である。こうした熱帯雨林地域が破壊されれば、多くの生物種が絶滅してしまう。

生物多様性条約は、経済的側面から生物遺伝資源へのアクセスを促進しているため、生物資源探査が可能になっている。これは、特定の生態系を保有国が保全し、生物資源探査プロジェクトを組んだ製薬会社にその生態系の収集を独占させて、医薬品を開発させる仕組みになっている。製薬会社は、保全の代償として契約金を支払い、保全地域の中から医薬品の基になる生物資源を探索して医薬品開発に成功すれば、原産国に利益配分としてロイヤルティを支払う。この遺伝資源の利益配分をめぐっては、今年の名古屋で開催される生物多様性条約締約国会議COP10の主要テーマになっている。

このように生物多様性はビジネスに結びつけることで人間の福祉向上に役立っている。その一方で、企業が生物多様性の保全をビジネスに取り込んで行かないと、経営リスクをもたらすことがある。

例えば、次世代自動車として、電気自動車が注目されているが、リチウムイオン電池を動力とする電気自動車が世界の主流になれば、その原料となる炭酸リチウムをめぐって資源争奪戦が起きる。しかし、鉱山開発は生物多様性への影響が大きいだけに、鉱山会社や商社は大きな評判リスクを抱える。鉱物資源の争奪戦が起きる中、評判リスクは上流の採掘現場から下流の電池メーカーにまで及ぶ可能性もある。鉱山開発は広い土地を改変し廃棄物も多いため、生物多様性に与える影響は大きい。住民との付き合い方にも企業の評判リスクが潜むため、地元住民との十分な対話が必要となる。

鉱山開発には、「生物多様性リスク」を抱えるため、「生物多様性オフセット」が実施される。失われる「生物多様性」の価値を定量化し、別の場所で復元して相殺する取り組みである。鉱山の「生物多様性」に配慮して、鉱山廃棄物を貯留するダムを建設したり、パイプラインを地中に埋めて再植林したり、また固有種、野生動物や爬虫類、両生類などの個体を近隣の保護エリアに移植する環境対策を行っている。また鉱山開発では、閉山後に採掘地域を緑化して元に戻すのが一般的である。採掘直後から種子から苗木を育て、採掘直後から植林を始めている。

鉱山開発の例からも、「生物多様性」の保全と経済活動を両立させる仕組みを充実させることがいかに重要であるかがわかる。中でも注目される「生物多様性オフセット」は、「生物多様性」の保全と経済開発が両立するものだけに制約し、「生物多様性」を維持する仕組みであるため、今後、他のセクターにおいても導入拡大が予想されている。

しかし、「生物多様性」の保全活動には多大な資金が必要になる。特に途上国は資金不足のため、先進国からの資金援助に頼ることになる。そこで民間資金を動員させる資金メカニズムとして、「生物多様性クレジット(生態系サービスバンキング)」が導入された。

「生物多様性クレジット」は、「生物多様性」の価値を数値化し、仮想マネーとして扱い、流通しやすいように一種の証券化したものである。購入できるクレジットは、異質な生物生態系の間でなく、同質のものだけが対象であるため、保全はより確実性の高いものとなる。

開発する企業がマイナス影響を相殺するために、自ら保全事業を見つけ、管理するのは容易でないが、相殺する保全事業の効果を証券化したクレジットを購入することで、開発事業のマイナス影響を間接的に相殺することができる。さらに市場が出来れば、「生物多様性」を保全する側にとっても収入が見込めるため、安心して保全事業に取り組むことができる。クレジットは、開発する側と保全する側を橋渡して、効率的な投資を助ける「生物多様性」の保全手段になっている。

開発や外来種移入などが原因で、「生物多様性」の損失が止まらず、「生態系サービス」が劣化している。「生態系サービス」の劣化が企業活動に影響を及ぼすため、「生物多様性」への取り組みの失敗が企業に経営リスクをもたらす。そのため、「生態系サービス」は、企業活動などビジネスの分野でも注目され始めている。

企業は、社会的責任(CSR)に基づく取り組みに加えて、生態系サービス評価(ESR)を指標として用いることで、自社の事業活動が生態系や自然に与える影響を明らかにする必要がある。また「生態系サービス」に関するビジネスリスクとビジネスチャンスを管理するための戦略が企業に求められている。
この記事のURL | 生物多様性 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
ゲゼルと持続可能な経済 
2010/01/17(Sun)
地域社会の発展に貢献する地域通貨は、童話作家エンデの「エンデの遺言」がきっかけで、日本中に広まった。今では地域通貨のバリエーションが広がり、地域経済の活性化や介護福祉、様々な社会貢献活動などにはなくてはならない存在となっている。

地域通貨は、元々ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルが考え出した減価通貨(スタンプ貨幣)に基づくもので、1930年代の世界大恐慌時代にオーストリアのチロル地方都市ヴエルグルで実践された成功例から始まった。その経緯については、ゲゼルの経済理論に魅せられたエンデが、「エンデの遺言」で詳しく紹介している。

エンデだけでなく、ゲゼルの経済理論に賛同したケインズも「一般理論」の中で、マイナス金利論として紹介しており、「未来の社会はマルクスよりもゲゼルに多くを学ぶだろう」と書いている。ケインズの予言どおり、デフレ経済になると、常にゲゼルのマイナス金利論が議論され、今なお、世界各国の経済政策に影響を与えている。

ゲゼルのマイナス金利論によると、モノは時間が経てば古びて減価するが、お金(貨幣)は価値が減らないため、お金を保有しているだけで金利収入が得られ、人はよりお金を溜め込んでしまう。そこでお金を市場に流通させるためには、お金もモノと同様、時間とともに減価する仕組みとして保有する紙幣にスタンプ(印紙)を貼り付けないと使えないようにしたのが、ゲゼルのアイデアであった。つまり、金利の代わりに、お金に課税(印紙税)することで実質的にマイナス金利を実現した。マイナス金利はお金の流動性を高めて、景気を上向かせるには絶好の政策だった。

日本の成長率が低いデフレ経済では、ゼロ金利になっても金融政策は無策となり、民間部門に資金需要がないため、お金が市場に回らず、預金などの安全資産に集中する。消費せずに預金量が過大となるため、名目金利がゼロより下がらないという「デフレの罠」に陥ってしまう。日本経済は一度、この「デフレの罠」にかかって不況を深刻化させてしまい、「失われた10年」を経験したが、また再び、「失われた10年」に突入しようとしている。

モノの価値がマイナスになった時は、名目金利をマイナスにすることで、「デフレの罠」を回避できるとされている。そこでゲゼルの「印紙税」と同様、現金や預金などの安全資産に課税することで実質的にマイナス金利を実現させ、お金を流通させようとする政策が注目されている。

マイナス金利策は、言い換えるとストックに対する課税(資産課税)のことである。法人や個人が保有する預貯金に対して年率数パーセントの資産課税で金利がマイナスになれば、政府の利払い負担もなくなり、毎年財政赤字が減っていく。また資産課税による税収は数十兆円になり、政府の財政が大幅に改善し、財政再建ができるという。

実質マイナス金利を実現する策は、いくつか提案されている。究極のマイナス金利策は、貨幣に金利を設定することで、貨幣をすべて電子マネーにすれば、日銀がマイナスでもプラスでも自由に設定できるという。国民すべてが日銀に口座を持ち、使用しないと減価する電子マネーが、消費を活性化させるというわけだ。世界でも電子マネーが普及している日本にこそ、政府版の電子マネーが実現できれば、持続可能な経済社会が期待される。だが、貨幣を廃止して金利を自由に設定できる政府版電子マネーは、政治的抵抗が大きくて実現は不可能とされており、貨幣も簡単に廃止されるものではない。

しかし、ゼロ金利であってもお金が動かない日本経済は、デフレ長期化、深刻な少子高齢化、財政危機といった三つの大きなリスクを抱えている。現行通貨システムの改革を含め、経済成長と財政再建を同時に行わないかぎり、財政破綻まで自転車操業を続けることになる。マイナス金利策による資産課税が標準的な税制度になれば、日本でようやくゲゼルの着想が実現可能な時代が到来する。
この記事のURL | 経済 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
マイケル・ムーアが暴く米国のプルトノミー社会
2010/01/23(Sat)
マイケル・ムーア監督の怒りの告発映画である「キャピタリズム~マネーは踊る~」が、多くのマスメディアに取り上げられている。テレビでも新聞でも報道されないアメリカのすさまじい搾取社会の実態が映し出されているからである。

住宅ローンが払えなくなって家を強制退去させられる人々、突然解雇され路頭に迷う労働者たち、クレジット会社から学生ローンを借りて卒業後の20~30年も借金まみれになる学生たち、航空自由化の弊害により低賃金でこき使われ借金と過剰労働から航空事故を起こすパイロット、従業員に無断で生命保険をかけ、従業員が死ぬと保険金をまるまる手に入る大企業、規制緩和で民営化された州の更正施設から利益供与を受け、些細な少年犯罪を有罪にしてしまう判事など、格差社会の日本でも起きておかしくないことばかりである。

シティバンクが優良顧客に配った極秘メモによれば、アメリカはもはや民主主義ではなく、「プルトノミー」と呼ばれる社会状況になったという。1%の富裕層が底辺の95%の合計より多い富を独占的に保有し、独占的に利益を吸い上げることができる社会のことである。1%が残りの人から全てを奪う格差社会なのである。しかも、リーマンショック後、国民の税金がその富裕層を救うために、投入された。

アメリカの資本主義がおかしくなり始めたのは、1981年にロナルド・レーガンが大統領就任後、元メリル・リンチCEOのドナルド・リーガンを財務長官に任命し、企業減税や規制緩和、富裕層減税を推し進めて、ウォール街が政治を支配するようになってからだ。累進課税の最高税率は70%から28%まで半減され富裕層が優遇された。日本でも小泉政権下で累進課税の緩和が進められ、最高税率が75%から40%に半減したことから、財政赤字がさらに膨張した。

それ以来、国を支配したウォール街は「狂ったカジノ」と化し、金融工学という錬金術で世界金融危機の元凶になったCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のデリバティブやサブプライムローンの証券化商品を編み出し、マイホームさえも賭けの対象にしてしまった。本来存在しない仮想マネーが信用取引によって増殖され、それがスパイラル的に拡大し、投機ブームとなった。そして一挙に約1000兆円(円換算)もパンクしたから「大恐慌」状態に陥ってしまった。

リーマンショック後、住宅を強制的に取り上げられる人が大量発生する一方で、経営危機に陥った銀行や保険会社に、公的資金による救済がなされた。それらの幹部たちには1億円以上のボーナスが出たという。盗人に追い銭である。

ムーアは、かってのルーズベルト大統領が生きていたらこのような事態にはならなかったと映画で悔やんでいる。ルーズベルト大統領以来、60年代まで続いたニューディール政策は、アメリカ国民の平等を第一とする福祉国家だった。ムーアはこれを実現するのがアメリカの使命だと訴える。そして今は資本主義と民主主義が正反対で、両立しないと見ている。その理由として、資本主義は、少数が利益を得るように設定されているが、民主主義は、すべての人の利益を考えるからである。

カトリック教徒であるムーアは、格差社会についてローマン・カソリックの神父たちに「クリスチャンとして、資本主義をどう思いますか?」と質問した。神父たちは皆、「資本主義は邪悪であり、神の教えに反している」と答える。

しかし、現代の資本主義は、プロテスタントが「労働によって富を蓄えることは神への道だ」と説いてカトリックの価値観を逆転させたことから、発展してきた。プロテスタントは自由市場主義を信奉しており、貧困者の生活を救う公的医療保険に対しても、「政府による福祉は社会主義だ」、「貧乏人のために税金を使うな」と頑固に反対している。

ムーアは、彼らに「それはキリスト教的ではない」とこの映画で訴えている。ムーアのいう民主主義と資本主義が両立しないというのは、アメリカ国民のカトリックとプロテスタントの価値観が互いに相容れないことを示しているともいえる。

プルトノミー社会を阻止するには、金融規制を強化して、仮想マネーの創出をご法度にすべきだろう。ようやくオバマ大統領も、金融規制を強化する改革案を発表した。米金融界のビジネスモデルの変更を迫るものである。

格差が拡大している日本も、膨大な財政赤字を考えれば、富裕層に対する優遇税制を是正し、累進税を元に戻して富の再配分を図る必要がある。
この記事のURL | 経済 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
求められる持続可能なディーセント・ワーク
2010/01/29(Fri)
年末年始に、住居を失った失業者に宿泊場所や食事を提供する公設派遣村が開設された。昨年と違い、政府が主導する貧困者支援策として各自治体で実施された。政府は派遣労働者の不安定な雇用を改善しようと今、動き始めている。

労働は単に働いて賃金を得るだけでなく、医療や年金、失業保険などの社会保障システムと深くかかわっている。しかし、このセーフティネットは、原則として終身雇用で長期間勤務する正規雇用だけを前提としている。

グローバル競争の激化で経済環境の変化が速い時代には、ビジネスモデルの寿命が短いため、企業の競争力は衰退しやすく、労働生産性が落ちる。そのため、企業は、競争力強化に正社員の人減らしと派遣など非正規雇用の拡大を進めてきた。その結果、正社員の雇用が不安定化し、新卒者の正社員への採用も抑制され、残った正社員は、週60時間以上の長期間労働で過労死症候群やうつ病になっている。

また、グローバル化の影響で労働派遣法の規制緩和が進んだ結果、労働者の3人に1人が非正規雇用になり、雇用が不安定してしまった。そのため、世界金融危機で企業の雇用調整により非正規雇用者が簡単に解雇されてしまい、セーフティネットによる失業保険や労災の適用から漏れる人々が増加した。さらに世帯主や単身者の非正規労働が増加してくると、非正規の雇用調整が貧困問題をもたらす原因になってきた。

非正規雇用が増えたのは、正社員の雇用保障と非正規雇用者の雇用保障に大きな差があるからである。だが、非正規雇用そのものを禁止することは、失業を増やすだけになる。正規雇用を前提とする日本の雇用セーフティネットは、穴だらけで完全に機能不全を起こしている。

持続可能な雇用セーフティネットを構築するには、非正規雇用や正社員の長時間労働を解消するための労働政策が必要である。また同時に、住まい、教育、育児、医療福祉など社会的・公共的インフラなどを整備させることも重要である。

その一方で、財政赤字拡大や雇用悪化とともに、少子高齢化の進展で医療・年金等のセーフティネットの再構築が求められている。高齢者世代には医療費自己負担拡大や年金支給年齢引上げ等の社会保障削減、現役世代には増税、各種保険料引上げ等の負担増大が予想されるため、将来不安を高めている。

こうした状況下で、持続可能なディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を考えるには、少子高齢化の進展を前提に、医療や年金、失業保険、職業訓練、能力開発手段の充実、公営住宅等を含めた持続可能な雇用セーフティネットを構築していく必要がある。その解決の方向性として、高齢者労働の活用と女性の労働参加を増やすことである。これによって現役世代の負担が軽くなり、労働力人口減少も緩和する。高齢者には年齢による体力衰えがあり、女性には出産や育児等の負担があるため、幅広い労働形態(パート労働や在宅勤務等の非正規労働)を拡げる必要がある。

中高年層が年齢に関係なく雇用されるには、従来の年功型賃金体系を見直して、労働生産性等を反映した賃金体系に転換する必要がある。その場合、求職者の労働生産性はその人の持つ技能、知識等によって判断される。このため、職業訓練や能力開発手段の充実、職能資格体系の整備などが重要となる。さらに、女性などの労働参加を促すには、保育所の充実化を推進することで出産や育児負担を軽減するほか、非正規雇用(パートタイム労働等)にかかる労働条件を大幅に改善していく必要がある。

こうした非正規雇用の労働条件改善に関しては、正規雇用との均等化を進めたオランダ・モデル(フレキシビリティー&セキュリティー法)が参考になる。現在の日本と同じように、高い若年層の失業率に悩んだオランダは、大胆な雇用改革を行ない、「同一労働同一賃金」の下で非正規労働者にも正社員と同等の賃金とセーフティネットを構築した。企業には雇用調整として非正規雇用(フレキシビリティー)が認められるかわりに、企業は派遣社員に対して、職業訓練を含めた十分な社会保障(セキュリティー)を与えなければいけない。その結果、仕事で「何をしたか」、「何ができるか」がすべてとなり、労働者全体の収入が安定して消費がのびたことで国の経済は飛躍的に成長した。世界金融危機で労働者が解雇されても、充実した失業保険があり、安心な社会になっている。

しかし、オランダ型ワークシェリング(パートタイム労働による雇用創出)を日本で実現しようとしても、ハードルが高すぎる。ひとつは、オランドの所得税や社会保障料は、日本の倍以上であるため、充実したセーフティネットを維持するには、それ相応の税負担を国民的合意で受け入れる必要がある。もうひとつは、政府、使用者側(経団連など)と労働者側(連合など)などの政労使三者のよるコンセンサス(合意)ができるかどうかである。オランダの場合は、全てコンセンサスに基づいて決める合意社会であり、また安楽死を認めるなどプラグマティズム精神に基づく合理主義の国だからこそ可能になった。

だが、日本のコンセンサス社会はオープンでも前向きでもなく、しかも知的誠実さがないため、誰も決断しないただの玉虫色の談合方式である。国民が納得するまで、激しく議論を戦わせた末に到達したコンセンサスではない。現実を正面から見つめる能力を持っていないため、変化を好まない不確実性の回避の強い社会になっている。

さらに、日本では社会保障費が企業の負担になるとの考えが強く、パートタイムという働き方はなかなか導入されない。政府は、財政赤字で予算が出せない状況にあり、政治的リーダーシップが発揮できない。未だに非正規雇用の待遇改善をめぐって、労使双方は交渉のテーブルに着いていない。

政治や経済は何のためにあるのか、国民1人1人が幸せになるためにある以上、その幸せを感じる価値観に合わせて考え方を改めていく必要がある。経済政策の基本は、「働きたい人に働ける職場を作る」ことで、雇用を守ることが最大の経済対策、景気対策のはずである。ディーセント・ワークの実現のため、改めて「われわれは何のために働くのか」という原点に戻って、社会全体で考える必要がある。そして新しい働き方を再構築する必要があるのではないだろうか。
この記事のURL | 雇用問題 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
| メイン |