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ソーシャルビジネスを振興する新しい資本主義
2009/09/08(Tue)
名作童話「モモ」で知られるドイツの作家ミハエル・エンデは、「エンデの遺言」で環境問題、貧困、戦争、精神の荒廃など、現代のさまざまな問題にお金の問題が絡んでいると、現在の金融システムの問題点を指摘していた。つまり「パン屋でパンを買う購入代金としてのお金と株式取引所で扱われる資本としてのお金は、全く異なった種類のお金である」という認識から、お金にはいくつかの異なった機能が与えられ、それが矛盾してさまざまな問題を引き起こしていると見ていた。そして「個人の価値観から世界像まで、経済活動と結びつかないものはない。問題の根源はお金にある」と提起していた。

リーマン・ショックを引き金に世界中を覆った世界金融危機は、90年代から市場への幻想を振りまいてきた新自由主義の破綻によるものであった。政権交代を求めた8月30日の総選挙の結果は、金融資本主義の崩壊後の世界的現状を反映したものであり、世界金融危機をもたらした金融資本主義の根本問題と持続可能な経済システムのあり方が問われている。今日の経済危機をもたらした直接的原因は、強欲なヘッジファンドなどが為替、原油、穀物などに投機マネーで張り合ったことにあるが、その根源はもっと根深く、90年代当時からの米国政府や経済界の腐敗構造にまで遡ると指摘されている。

冷戦後のマルクス主義経済の破綻と金融資本主義の失敗を経た今、持続可能な経済システムとして、マイクロソフト社の創始者ビル・ゲイツが2008年のダボス会議で提唱した創造的資本主義が注目されている。従来の資本主義では、経済市場の枠組みにいる人々は恩恵を受けるが、その市場の枠組みから排除されてしまった人々は、グローバル化や市場原理主義によって格差や貧困がさらに拡大してしまった。そのため、グローバル市場から排除された人々の貧困問題などをはじめとする世界的課題を解決するには、政府や企業、NPOが協働してよりよい経済社会システムの構築が必要である。

ビル・ゲイツが唱える創造的資本主義は、企業利益と社会貢献を両立させる新しい経済システムで、この概念は、企業の戦略的CSR活動やソーシャルビジネス(社会起業)に通じるものであり、社会全体の利益を最大限に考えようとする新しい資本主義である。その意味において、社会貢献を目指すソーシャルビジネスの活動が活発化し、社会起業家が活躍する「フラットな市民社会」の到来が期待される。

また、マイクロクレジットの融資モデルでグラミン銀行を運営し、2006年ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスも、ビル・ゲイツと同様、ソーシャルビジネスを振興する新資本主義を唱えている。ユヌスの新資本主義は、利益の極大化を追求する資本主義とは別に、「他人に尽くすのが幸せ」という概念に基づく新しい資本主義を志向するものである。つまり利益極大化を目指す資本主義経済と社会的課題の解決を目的とするソーシャルビジネスの新資本主義経済が、相互に依存し、融合することで持続可能な経済社会システムに転換するという考え方である。すなわち、ソーシャルビジネスを盛んにすることで、企業のCSR活動を呼び起こし、社会全体の利益を最大化する効果が期待されるためである。

さらに有名なベンチャー・キャピタリストでDEFTA PARTNERS(デフタ・パートナーズ)グループ会長の原丈人が、会社の事業を通じて公益に貢献する公益資本主義を提唱している。これもまた、上記のビル・ゲイツやムハマド・ユヌスの新しい資本主義に通じる考え方である。公益資本主義は、株主資本主義に代わるもので、株主だけが富を得るのではなく、より多くの人が幸福になる仕組みを追求する。原丈人は、株式会社の利益をNGOの収入源として福祉に活用するなど、バングラデシュやアフリカで活動を実践している。

童話作家エンデは、さらに「資本主義経済におけるお金は、より高いリターンが得られるところに移動し、その結果、利益はごく一部の人に集まり、一方で利益を奪われ続ける多数の人々が存在することになる」と指摘していた。エンデが予測したとおり、その弊害を生んできたグローバル資本主義は、過度な金融バブルの崩壊により終焉を迎え、一方でグローバル資本主義に代わる新しい資本主義の姿が見え始めている。グローバル市場から排除された人々の格差社会を克服するためには、社会全体の利益を最大限に配慮する持続可能な経済社会システムに転換していくことが重要である。

参考になる書籍を5冊

エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」
(2000/02)
河邑 厚徳グループ現代

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資本主義崩壊の首謀者たち (集英社新書 489A)資本主義崩壊の首謀者たち (集英社新書 489A)
(2009/04/17)
広瀬 隆

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ゲイツとバフェット 新しい資本主義を語るゲイツとバフェット 新しい資本主義を語る
(2009/04/17)
マイケル・キンズレー

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貧困のない世界を創る貧困のない世界を創る
(2008/10/24)
ムハマド・ユヌス

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新しい資本主義 (PHP新書)新しい資本主義 (PHP新書)
(2009/04/16)
原 丈人

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ミッションありきの社会貢献が、持続可能な社会を切り拓く
2009/09/13(Sun)
グローバル化に伴い、我が国が直面する雇用問題、少子高齢化、子育て支援、環境問題、地域活性化、教育問題、途上国支援などの社会的課題に対して、政府の施策や企業の CSR 活動だけでは、解決が困難であり、市民のNPO活動などセクターを越えた協働が不可欠となっている。

しかし、多くのNPO活動は、ボランティア事業というアマチュアリズムに支えられており、「寄付文化」のない日本で活動を展開していくことが困難になっているため、事業型NPOや企業との協働が増えている。その中で、ソーシャルビジネス(社会起業あるいはソーシャルベンチャー)という持続可能なビジネス手法を用いて、社会的課題を解決する新しい事業分野が注目されている。ひとつの事業体として収益を生み出し、同時に社会貢献を行うソーシャルビジネスは、行政の手の届かない社会的課題をビジネス手法で効率的に解決し、継続的な事業活動の形態をとるため、多様な雇用創出にも貢献する。

ソーシャルビジネスがより多様に、より活発に、より持続的に発展できる事業環境を整備するためにも、優れたアイデアをビジネス化に後押しする専門家などの中間支援組織が必要である。また新しいソーシャル・イノベーションにつながる社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー、あるいはチェンジメーカー)などの人材育成も重要である。欧米でソーシャルビジネスが拡がった要因のひとつに、優秀な学生ほど、地域や社会を良くしたいという社会貢献志向が強く、ソーシャルビジネスに多く参入してきた背景がある。日本の大学・教育機関は、こうしたリーダーの人材育成が遅れている。

ソーシャルビジネスは、社会的課題解決による地域活性化を担う主体として期待されているものの、社会的認知度は非常に低い。このため、企業や行政の協働パートナーとして認識されず、資金調達が困難になっている。さらに社会性と事業性を両立させるための経営資源(人材、設備、資金、情報など)が不足しており、行政やCSR活動に取り組む企業も含めて、ソーシャルビジネスを支援する法的制度の整備が求められる。

またソーシャルビジネスは、営利企業と異なり、人とのつながりによる信頼感を資本(ソーシャルキャピタル)としており、成功するには社会的ミッションに共感が得られることが重要である。地域社会では、環境問題、介護福祉、教育、子育て支援、街づくり、観光等に至るまで、様々な社会的課題が顕在化している。そのため、地域住民とソーシャルキャピタルを醸成することによって、地域の課題解決を目指すソーシャルビジネスやコミュニティビジネスが可能となる。

さらにソーシャルビジネスは、地域社会の活性化のみならず、自己実現の満足感や生きがいを与える事業活動でもある。特に自己実現の場を目指す高齢者や団塊世代、女性、若者にとって、ソーシャルビジネスは、新たな社会活動や多様な働き方につながっていくと言える。ソーシャルビジネスは、市民の主体的な動きを示すものとして、市民性の高い社会的事業でもある。

人とのつながりを求めるソーシャルビジネスは、行政や企業、市民の様々な協働パートナーを通じて、持続可能な社会づくりの触媒的な役割を担っている。特に社会貢献ありきで行動する若者が、自ら活動主体となって持続可能な社会を切り拓いていくことを期待したい。

参考になる書籍を3冊

チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変えるチェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える
(2005/08/04)
渡邊 奈々

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社会起業家という仕事 チェンジメーカーII社会起業家という仕事 チェンジメーカーII
(2007/11/01)
渡邊 奈々

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「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方
(2007/11/06)
駒崎弘樹

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ソーシャルビジネス支援に社会株式市場の創設
2009/10/22(Thu)
前回の記事で、「意志のあるお金」が持続可能な社会を促進させることから、SRI(社会的責任投資)市場の拡大が重要であると書いた。企業もまた、持続可能な社会の実現に向けてCSR活動の取り組みを進めている。CSR活動を評価するSRIインデックスは、企業が何をもって社会的責任を果たしているかで異なってくる。その中で、社会貢献活動を行う民間団体を積極的に支援する企業を組み入れたSRIファンドは、金融機関が創出することにより可能である。

一方、個人は直接投資を通じて特定の社会問題解決を目に見える形にしたいというニーズがある。そのニーズに応えるものとして、ソーシャルビジネスが注目されている。最近、民主党政権になって政治やマスメディアにおいて、ソーシャルビジネスの重要性が強調されている。特に無駄な公共投資を見直す政策として、ソーシャルビジネスを活用しようとする動きが高まっている。つまり、行政部門の公共サービスを民間で新しく作り変えるソーシャルビジネスである。

しかし、ソーシャルビジネスが、行政や企業、市民などの支援サポーターなど社会全体の理解や共感を得たとしても、実際には、資金調達の機会を得ることが容易でなく、持続的な事業活動が展開できない。日本は、米国とは違って多くの財団から資金援助が望めないことから、新しい仕組みによる資金調達の場を検討すべきである。

また、特定の社会課題解決モデルをデザインしたソーシャルビジネスに、支援ファンドを創ることも重要である。その場合、個人は、投資・寄付した資金がどのようにして社会課題解決に役立つのかを知りたいため、社会的リターンの評価指標づくりや、社会課題解決モデルなど事業活動の情報公開を求めるディスクロージャー制度を整備することが必要である。

さらに、持続的な資金調達を望むソーシャルビジネスと社会的リターンを求める個人を、直接つなげるソーシャルビジネス向け公設市場の創設が求められる。つまり、個人や民間がソーシャルビジネスに直接出資できように、良質のソーシャルビジネスを上場させ、社会の公器として発展できるように便宜を図る法制度が重要である。

ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士はソーシャルビジネスのための「社会株式市場(Social Stock Exchange)」設立を提唱している。ブラジルのサンパウロ証券取引所で、世界初の社会株式市場が実現しているし、南アフリカでも設立されている。同様にロックフェラー財団などの後押しで英国でも社会株式市場の設立準備を進めているし、他国でも追随する動きがある。今や社会貢献を目的とした公設の資金市場の実現可能性は、グローバルで高まっている。

営利企業による市場経済と政府部門による公共サービスとは別に、サードセクターの非営利部門が、市場機能を活用した仕組みで社会貢献活動を活発化させることが重要である。非営利セクター向けに新たなスキームの「社会株式市場」を創設することで、ソーシャルビジネスは持続的な資金調達が可能になる。ソーシャルビジネスが積極的に社会貢献活動を実践できるように環境整備を進めていくことが望まれる。
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日本の大手企業がソーシャルビジネスに本腰
2010/08/01(Sun)
貧困や環境の変化といった社会問題を解決しつつ、利益を生み出す「ソーシャルビジネス」に、日本の大手企業が本格的に取り組み始めた。

日本では、NPOやベンチャー企業が「ソーシャルビジネス」の担い手であったが、最近、大手企業も関心を寄せるようになった。背景にあるのは、人口減による国内市場の縮小で、成長力の高い新興国を中心に経営の軸を海外に移す大手企業が増えているからだ。

日本の大手企業が、途上国の市場開拓と社会問題の解決を両立できると注目したのは、「BOPビジネス」と呼ばれる事業ビジネスだ。世界人口の約7割にあたる40億人が、年間所得3,000ドル未満の収入で生活している。そうした所得ピラミッドの底辺層(Base Of the economic Pyramid)の人たちに、食料、保健医療、情報通信、エネルギーなど、さまざまな分野で生活の改善につながるモノやサービスを安価で提供する「BOPビジネス」が世界で注目を浴びている。その市場規模は5兆ドルと言われている。

「BOPビジネス」は企業やNGO の資金や技術、ネットワークを活用することにより、社会的課題の解決をより効果的かつ効率的に達成することが可能とされている。

しかし日本は「BOPビジネス」への取組みが遅れている。その要因のひとつとして、日本企業のハイエンド志向が強いことにある。特に製造業は、最先端の技術を用いた高機能、高品質の製品開発に傾注し、国内や先進国のハイエンド市場を相手にしてきたため、BOP層を対象とする製品や技術の開発には資源を注いでこなかった。そうしたオーバースペック製品は、BOP層ユーザーのニーズや生活スタイルにそぐわないため、単一機能、簡易なメンテナンス性、低価格を志向する技術戦略を持つことが求められている。

ハイエンド志向が強い日本企業には、発想を180度転換することが必要だが、既にインド、中国といった強力なライバルが存在する。彼らのほうが、日本人よりBOP商品の開発に長けている。

もうひとつは、企業とNGOの連携の弱さにある。NGO は途上国の現場におけるネットワークづくりや情報収集、普及啓蒙活動などにおいて、重要な役割を果たしている。欧米のグローバル企業は、NGOや開発援助機関と連携してその専門性やネットワークを活用することで、販売やメンテナンスの新たなネットワークを構築している。日本企業はこれまでNGOとの連携が活発でなかったことから、このような役割を担えるプレーヤーが少ない。

しかし途上国側には、「BOPビジネス」に対する批判や不満が強い。先進国企業は、途上国を新しい市場としてしか見ておらず、利益のために貧困層の生活に不要な商品を売るとの不満が出ている。また「BOPビジネス」は、収益を吸い上げて株主への配当を回すため、現地に利益を還元しないことに対する批判が根強い。

こうした指摘を受けて、日本の大手企業の中には、「ソーシャルビジネス」の看板にこだわるようになった。「BOPビジネス」と「ソーシャルビジネス」は、どこが違うのだろうか? 

「ソーシャルビジネス」を行なう企業は、利益最大化を目指す一般の企業とほとんど変わらないが、「ソーシャルビジネス」によって発生した利益は投資家に渡るのではなく、ビジネスに再投資される。すなわち単なる利益最大化ではなく、関わった人々の生活のために社会的恩恵を生み出す目標を追及するところが決定的に異なる。

衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井会長が、「貧困層の一番の問題は、稼ぐ方法がないこと。そのチャンスを作る」とし、バングラデシュのグラミン銀行と合弁会社「グラミン・ユニクロ」を設立し、バングラの雇用創出などにつなげる「ソーシャルビジネス」事業を始めると発表した。会見に同席したグラミン銀行総裁のムハムド・ユヌス氏は、「日本企業との合弁第一号。他の日本企業に社会的事業をアピールすることにつながる」と強調した。

「グラミン・ユニクロ」は、現地でTシャツや女性用下着、学校の制服などを製造して、グラミン銀行の債務者ネットワークである農村部の女性を通じて製品を販売する。生地の調達から製造、販売まですべてをバングラデシュで行うことによりコストを削減し、「貧困層に手の届く価格」という約1ドル程度で販売される。「グラミン・ユニクロ」が利益を出したとしても、それらはすべてバングラデシュのビジネスに再投資される。

「ソーシャルビジネス」の取り組みは、企業の社会的責任をアピールすることに注力する欧米で広がっているが、日本企業には本格的な事例が少なく、ファストリのように収益を吸い上げずに現地に再投資する本格的な「ソーシャルビジネス」は日本企業では初めてある。

世界で評価される一流のグローバル企業になるには、「ソーシャルビジネス」などを通じた社会的貢献が不可欠である。グローバル化を急速に推進するファストリにとって、海外の反発を受けない形で展開する狙いもあり、「ソーシャルビジネス」への進出はマイルストーンなのである。
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