FC2ブログ
医師不足解消に、医師でない医療専門職が治療する
2009/12/28(Mon)
最近、医師不足が深刻化している中、医師に代わって軽い怪我や風邪などの簡単な初期診療を看護師に担わせようとする動きがある。この看護師のことを「ナース・プラクティショナー(診療看護師、NP)」という。NPは、米国などで広く活躍している。

米国では、風邪やねんざなど簡単な初期診療、急性の病気の手当て、薬の処方、予防注射などを行うことができる小さなコンビニ診療所がはやっている。診察するのは医師でなく、NPやフィジシャンアシスタント(医師助手、PA)と呼ばれる医師でない医療専門職が、医師の仕事の一部を担い、地域医療を支えている。利用者の支持は強く、1日12時間営業、休日なしで予約不要の利便性が受けている。

また病院では、医師は重症患者に専念して、軽症患者の治療はPAやNPに任されているところが多い。大学病院でもPAが活躍しており、心臓外科、循環器科、整形外科、脳外科といった専門性・緊急性の高い科において重要な役割を果たしている。その内容は、日々の診療、カルテの記入、手術前後の患者の管理、同意書の作成、麻酔、薬の処方せん、検査のオーダー、ICUおよび一般床での術後管理と多岐に亘っている。

日本なら医師でないとできない医療行為を、米国ではPAやNPなどが担っている。NPが14万人、PAが8万人いて医師の仕事の多くを支えている。PAは、医師の監督の下に医療行為を行う資格を有し、医師が行う医療行為の8割方をカバーしている。日本の看護師から受けるイメージとは別物である。PAは、大学院の専門課程で2~3年をかけて養成され、国家試験を経て資格を得る。医師の助手として、医師と協力して患者のケアにあたる。NPは、医師がいない過疎地での地域医療に貢献しており、PAは病院内で働くことが多い。

医療が高度化されるのに伴い、医療現場のニーズに即して、従来医師の仕事であった診療の一部(新たな検査導入の説明、患者への治療説明、必要書類の準備など)を医療専門職に移している。米国の医療現場では、PAはいまや不可欠な存在となっている。PAやNPは、医師ほど責任が重くなく、忙しくない上に、安定した収入が見込めるとして、人気職業ランキングでPAは2位、NPは4位と人気の職業となっている。米国以外でも、カナダ、オーストラリア、韓国、フランス、イギリスなどで、既に同様の制度がある。

日本でも、医師不足による医療崩壊が深刻である。その対策として、単に医師の数を増やすだけでは解決できる問題でなく、より基本的な医療提供体制の見直しが必要である。医師でなくても対応可能な業務まで医師が行っている。また看護師等の医療関係職は、その専門性を発揮することができないとの指摘もある。

そのため、看護師ら医師以外の医療従事者の役割を拡大しようと、NPやPAの導入を訴える声が高まっている。NPの人件費は、医師に比べて低いため、NPの導入は、医師の負担軽減だけでなく、医療費の抑制効果も期待されている。またNPに外来業務を任せれば、患者の振り分け効率化がアップして患者の待ち時間短縮にもつながる。しかし、開業医中心の日本医師会は、「医療の質が落ちる」として、導入に反対している。一方で、深刻な人手不足に悩む自治体病院「全国自治体病院評議会」は賛成している。

また過重労働などで外科医希望者が減少し、外科医不足が心配される外科系医師の学会からも、NPやPAの養成を望む声が上がっている。医療の質と安全性を高めるためには、チーム医療による分業が不可欠である。さらに医師の業務負担削減の手段として、チーム医療の推進や、医師とコメディカル(看護師など、医師の指示の下で働く医療従事者)の役割分担が必要とされている。

厚生労働省は、地域の医師不足、病院勤務医の就労環境悪化などを受け、チーム医療を進める上で欠かせないスキルミックス(多職種協働)を推進しようとしている。 スキルミックスは1990年代に医師不足、看護師不足に悩んだOECD諸国で、その養成に時間とコストがかかるこれら職種のあり方や機能が議論された結果、生まれた概念である。スキルミックスは単なる役割分担ではなく、医療チーム内における権限と責任の委譲を伴っている。また厚労省は、チーム医療を推進し、医師と看護師などの協働・連携の在り方を検討する「チーム医療のあり方に関する検討委員会」を8月に立ち上げ、医師をはじめとした医療関係者等からヒアリングを行い、幅広い視点からスキルミックスのあり方を検討している。

しかし、米国はじめ、多くの先進国で導入・定着しているNPやPA制度が、日本ではまだ議論の入り口でとどまっているのは、遅きに失した感がある。患者となる国民から見ると、「チーム医療やスキルミックスがなぜ今までできなかったのか」との疑問がある。医師や看護師を代表するそれぞれの職能団体の対立がスキルミックスを阻害していると言われている。もはや「なぜ」ではなく、「新たな医療職種を創設して、一定の教育・研修を課すなどの条件で、どこまで可能であるか」、「医療行為の規制緩和を進めて、医師が絶対やらなければならない仕事は何か」を医療現場のみならず、社会全体で議論すべき時期が来ている。さらに医療は、科学立国を支え、経済波及効果の高い産業であるため、新たな雇用を生み出す場でもある。国は、医療を大幅な雇用創出の場にするための財政投資をすべきである。
スポンサーサイト



この記事のURL | 医療 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
新薬価制度でドラッグ・ラグは解消しない
2010/03/30(Tue)
薬害と並ぶ「ドラッグ・ラグ」問題は、日本の薬事行政の機能不全が原因となっている。

「ドラッグ・ラグ」の改善を目指して、患者が声をあげ、国もようやく本格的に取り組みを始めた。この4月から新しい薬価制度による「壮大な社会実験」がスタートする。

厚労省は、日本で未承認の薬や保険適応外の薬でも、治療に使えるようにする新しい薬価制度をつくった。海外で承認されている薬が日本で認められるまでに遅れが生じる「ドラッグ・ラグ」を解消するのが目的だ。

薬の特許期間中は薬価を維持する代わりに、製薬会社は、学会や患者団体などから求められている未承認薬・適応外薬の開発に取り組まなければならない仕組みになっている。未承認薬などの開発要請に応じなければ、新薬価制度の恩恵が受けられないという「ペナルティー」が待っている。

国は、薬価制度に不満を持つ製薬会社の要望を採り入れ、その代わりに未承認薬・適応外薬の開発に向けた取り組みを促した。いわば「アメ」と「ムチ」で、「ドラッグ・ラグ」を無くす狙いだ。

「ドラッグ・ラグ」問題の対象になるのは、外資系企業が多いため、未承認薬・適応外薬の開発ノルマは外資系に偏るという。

未承認・適応外薬の開発を製薬会社に促す仕組みは、以下のとおりだ。

患者団体や学会から適応拡大などの要望があった中から、厚労省の検討会議が「医療上の必要性がある」と評価した薬について、国が製薬会社に開発を要請する。

製薬会社は海外の臨床試験データなどのエビデンスを集めて、薬事承認申請できるのか、国内で追加の治験を行う必要があるのか判断する。さらに厚労省の検討会議はその判断が妥当かどうかを評価する。

「治験は不要」なら、製薬会社は国の開発要請から6カ月以内に承認申請を行う。「治験が必要」とされたときは、1年以内に治験に着手することが求められる。

しかし「ドラッグ・ラグ」問題の解消を製薬企業に押し付けるだけでは、根本的な解決につながらない。

適応拡大の要望は300件以上あり、その承認申請が集中すると、審査を担うPMDA(独立行政法人・医薬品医療機器総合機構)が対応できなくなりかねないからだ。

海外では、薬事法で適応の承認を全部取っていなくても、保険が認めた適応については使用できる国が多数である。すなわち薬事承認と保険支払いは別々になっている。適応外薬の対応方法として、主要な疾患に承認されたら、後は主要な臨床試験のエビデンスがあれば、順次保険適応とされる仕組みになっている。

全部の適応を薬事法で承認されないと、保険の適用にならないのは、日本だけである。日本は、本来別々にすべきものを連動させてしまっている.日本も海外と同様な仕組みを導入すべきである。

また「承認」以外のアクセス方法がないことも問題だ。
海外では、承認前の薬剤を使うためには、「仮承認」の制度があるし,緊急時に一時的に未承認薬を使えるための制度もある。

海外で認めている薬を後追いで処理するだけでは、「ドラッグ・ラグ」はいつまで経っても解消されない。
この記事のURL | 医療 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
医師不足、看護師不足の医療崩壊
2010/05/16(Sun)
海外では診療ができる看護師資格の導入が広がっている。医師不足による医療崩壊の日本でも、厚労省が、高度な医療行為ができる新資格「特定看護師(仮称)」の導入を検討しており、モデル事業での検証がスタートする。

医療崩壊を食い止めるには、医師不足の解消に取り組まない限り、危機は克服できない。日本の医療現場は、「医師でなくてもできることを医師が行っているから医師不足に陥っている」という実態が指摘されている。

また医師の絶対不足からくる医師(特に病院勤務医)の過重労働が常態化している。過酷な労働条件を嫌って病院を辞める医師は、後を絶たない。新研修医制度で新人医師が研修病院を自由に選択できるようになり、地方病院の医師不足が深刻になったからだ。

医師の過重労働解消のためにも、「特定看護師」など人材を集める政策が必要で、一定の条件下とはいえ、医師業務の一部を肩代わりできる特定看護師の導入は画期的である。深刻な医師不足や病院の診療科の休廃止が相次ぐ地方では、とりわけ期待が大きい。

米国では40年以上前に診療看護師(ナース・プラクティショナー)制度が導入されており、診療看護師の仕事ぶりは、「病床の記載の緻密さ」や「処置の丁寧さ」「患者への指導のきめ細かさ」などから、医師よりも優れている面が明らかにされている。また一足早く医師の指示なしで診断や治療をする「診療看護師」が定着しており、小児科や産科の診療所で活躍しているという。

さらには診療看護師や栄養士が生活指導を行い、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満など生活習慣病を減少させ、医療費の削減が可能になっている。薬物投与のみでは、治癒効果に限界があることが示されている。

今や医療と看護や介護の領域は重なり合っており、全体としてのチーム医療が重要になっている。臨床医療は、もはや医師のみの診療領域ではない。医業の高度化、専門化が進んでいる今日、医師がすべての業務に通じて、対応することはできない。また高齢化が進んで生活習慣病などが主流になった今の時代に対応できていない、との指摘がある。医師不足が深刻な現場からは、医師と看護師らが協力する中で、看護師らの役割が広がることへの期待が高い。

むしろ看護師は医師より患者に目線が近く、患者をよく見て判断できる。実際に、経験を積んだ看護師は経験の浅い医師より医療に精通している場合も多い。医療に精通した看護師を養成して医師の診療行為の一部を担っていくことは、多忙を極める医師にとっても、より専門性の高い医療に専念できる利点がある。

なぜ、いま特定看護師の導入なのか。背景には、医療の高度化に伴って、医療現場においてどこまでが医師の業務なのか、どこまでが看護師の業務なのかについて明確になっていない「グレーゾーン」の業務が急速に広がっている現実がある。現行の法律では、医師法により、医療行為は医師しかできず、看護師ができるのは「療養上の世話や医師の指示下でする診療の補助」と保健師助産師看護師法(保助看法)で定めている。

厚労省は保助看法の改正も視野に入れている。しかし特定看護師の導入については、開業医中心の日本医師会が「特定看護師の奪い合いになり、チーム医療を行う地域医療が大混乱する」などと強く反発している。日本医師会は、救命救急士制度の導入にも最後まで反対し続けていた経緯があったが、医師の領域が侵されかねないという懸念が強いようだ。

現場の実情に即して医師、看護師、医療事務の業務分担を見直し、医療の質の向上につながるように、各自でレベルアップを図ることが必要でないのか。

そもそも医師不足になった背景には、自民党政権下での医療費抑制策と医師養成抑制策で、大学の医学部定員を削減してきたことにある。医師抑制策による医師不足は、地域医療の格差や診療科格差(特に小児科、産婦人科の不足)を招く結果となった。これを解消するには、医師抑制策が取られる以前の元の定員に戻すことである。そうすれば新たに医学部を新設する必要がなくなる。

他方で、医師の過重労働だけでなく、看護師の過労死も問題になっている。

看護師は、少子高齢化の影響で大幅な供給不足になっており、今後とも看護師不足は深刻化していく。また看護師の多くは女性で、結婚、出産・育児が離職の大きな理由になっている。

看護師資格を持っているけれど、出産や育児などで職場を離れた「潜在看護師」の数は約55万人にも上っている。「潜在看護師」が看護師としての仕事に復帰してくれれば、供給不足も緩和することになる。そのためには、「潜在看護師」の復帰支援や、再就職支援が必要である。また結婚しても安心して働きつづけられるよう、院内保育所の確保や産前産後の休暇、育児休暇などが十分にとれるよう代替要員の確保など体制を整えることが必要である。

さらには看護師の職業の幅を広げ、男性も看護師になりやすい状況を作って行くことも、必要ではないだろうか。
この記事のURL | 医療 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
パンドラの箱を開けたiPS細胞がもたらす未来図
2010/09/25(Sat)
過日放映されたNHKスペシャル「“生命”の未来を変えた男~山中伸弥・iPS細胞革命~」は、色々と考えさせられた番組で、万能細胞「iPS細胞」の使い方によっては、人類の歴史を変えるほど空恐ろしい可能性を予見している。

たった一つの細胞から、体中のあらゆる細胞を作り出せる万能細胞「iPS細胞」は、“医療革命”をもたらすと言われるほど画期的な発明で、世界中の研究者や製薬会社が注目し、研究開発を進めている。

バチカンのローマ法王庁も「iPS細胞」の成功を「歴史的な成果」として歓迎しており、世界的に「iPS細胞」待望論が高まっている。その理由として、「iPS細胞」が倫理問題の壁を越えるものとして登場したからだ。自分の細胞から作れるため、拒絶反応も倫理上の問題もクリアできるというわけだ。

ヒトの「iPS細胞」を皮膚の細胞から世界で初めて作り、人類にとっての「パンドラの箱」を開けた京都大学の山中教授は、今年度のノーベル医学生理学賞最有力候補になっている。

ヒトの皮膚細胞に山中ファクター(4個の遺伝子)を導入すると、受精直後の細胞(受精卵)に近い状態に戻る。つまり初期化された状態が「iPS細胞」だ。

「iPS細胞」が医療革命を起こすと言われるには、再生医療、病態の解明、創薬の開発など3つの分野への貢献が予想されるからだ。「病気の予防、慢性疾患の根治、薬を安くする」などの三つは、高齢社会の医療課題であるが、「iPS細胞」を使う再生治療が成功すれば、根治につながるという。

こうした原理を応用していけば、様々な病気治療に役立つはずだが、まだ道のりは遠い。現時点で最も実用化として近いのは、難病の研究や薬剤開発への貢献などだ。

臓器や組織を再生する再生医療には、心筋細胞や神経細胞などを大量培養すれば、臓器に成り得る。最大のターゲットは糖尿病患者で、その膵臓の細胞を置き換えることでかなりの医療費削減につながる可能性があるという。

病態の解明には、患者の「iPS細胞」から例えば発病前の神経細胞を作り出し、どうやって発病に至ったのかを追跡調査することができる。筋肉が動かなくなる難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の研究で、ALS患者の皮膚から作り出した運動神経細胞が、健康人と比べて消滅しやすいことが判明し、細胞が病気になる過程が試験管内で再現できるようになった。同様なことがアルツハイマー病やパーキンソン病など様々な病気の解明にも期待されている。

ヒト「iPS細胞」から作り出した病気の細胞に薬を投与して、その効果や副作用を効率よく調べることができる。例えば、開発中の心臓病薬を「iPS細胞」から作り出した心筋細胞に投与して副作用を調べることができる。

しかし「iPS細胞」は、難病患者にとっては福音をもたらす反面、使い方次第では悪夢を生むこともある両刃の剣だ。倫理的な問題が数多く出てくるからだ。

ゲイの同性愛夫婦で、男性の皮膚から卵子を作り出し同性同士の遺伝子を持った子供を作る事も出来るし、女性の体から「iPS細胞」で精子を作り出し男性がいなくとも妊娠といった荒業も可能だ。また人間と他の動物を掛け合わせた「キメラ」を作る事も可能だという。

まさに「iPS細胞」は「パンドラの箱」を開けたことで、生命操作の時代に突入してしまった。「iPS細胞」は生命を変えるだけでなく、人類が経験していない社会へと変えてしまう。

今まで人間の歴史で出来なかったことが、生命科学の発達により人為的に出来るようになった。人間が神の業の領域に踏み込んでしまった。

「iPS細胞」の研究は、科学と宗教がまじわる領域で、「人間としての生命はいつ始まるのか」という問題にかかわる。「生」「死」「人間の尊厳」といった定義の根幹が揺らいでいる。生命はどこから始まるのか。人間であるとも、ないとも言いきれない存在である。

「iPS細胞」がもたらす未来図は、文化、宗教、倫理、医療など社会全体が大きく変わっているであろう。

冗談でなく、「わたしの卵子を愛犬の精子と掛け合わせて、受精卵を自分の子宮で育てたいんです」とも言い出す女性が出てくるかもしれない。
この記事のURL | 医療 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
| メイン |